2015年5月30日土曜日

Apple Watch、どうなのよ? 何に使うのよ? 良い点と今イチな点まとめ

アップルウォッチが到着してから2週間が過ぎました。睡眠時と入浴時以外はずっと左手首に巻き付けて、仕事をしたりワークアウトしたりした結果をいったんまとめます。


まず、ウォッチの装着感なり大きさなり、フィジカルな考察については、ひとつ前のエントリにまとめましたのでそちらをご覧下さい。

ここでは、主にOSやアプリなど、ソフトウェアの評価を中心に。まずは今イチな点から始めましょう。

1. Bluetoothによる通信ストレスが結構大きい
アップルウォッチは、iPhoneとセットで使うのが基本です。アップルウォッチの至近距離にiPhoneを置き(移動する場合は携帯し)、Bluetoothで通信しながら使うということになります。


だから、ウォッチの方で何かのアプリを立ち上げると、ウォッチはiPhoneと通信しながらアクションを実行していきます。これが意外にかったるい。けっこう時間がかかるんです。ものにもよりますが、何かボタンをタップしてからアクションにいたるまで3秒から5秒ぐらいかかります。ちょっとストレスですね。

2. アラートは、必ず届くわけではない
アップルウォッチは、iPhoneに届くさまざまなアラートを受け取ることができます。iMessageやMAILやLINEやFacebook Messenger、Twitterなどなど。Smart NewsやYahoo! Newsなどニュースアプリからのアラートも受け取ることも可能です。


ところが、これが届くときと届かないときがある。Bluetoothの通信クオリティのせいなのか何なのか、原因はよく分かりませんが、とにかくアラートは3回のうち1回は届かない感じ。

3. 両手がフリーでないと使えない
まあこれは当たり前っちゃ当たり前なんですが、ウォッチは左腕に固定されているので、操作するのは右手ってことになります。つまり、片手でできるのは時計を見ることだけ。それ以外は、両手がフリーでないと操作できない。

4. アプリによっては、かなり機能が限定的
これについては、別途アプリごとに説明しましょう。

続いては、良い点を。

1. 電話ができる。
アップルウォッチを他人に見せると、十人が十人「で、それ時計のほかに何ができるの?」と聞かれます。そこで一番分かりやすいのが、電話をかけて見せること。


誰かに電話をかけて、ウォッチを口元に近づけて会話してみせれば、「おおーっ」となります。スピーカーフォンなので、相手の声も聞こえている状態。腕時計で電話だなんて、まさにジェームズ・ボンドの世界ですよね。

ただし、腕をくの字に曲げて長時間通話するのは疲れるので、長くなりそうな電話は途中でiPhoneに移動した方がいいでしょう。

2. ワークアウト系のアプリがなかなかの出来
アップルウォッチは、アップル初のウェアラブル端末ということになりますから、やはりワークアウトやヘルスケア方面への目配りが気になるところです。

アップルウォッチを着けていると「アクティビティ」というネイティブアプリが、一日の活動量を記録。また、心拍数は「ヘルスケア」に記録されていきます。


とりわけアクティビティの輪っか型グラフは、視覚的にもシズル感が強く、達成・未達成が明快に示されるので、日々、達成目指してワークアウトしてやろうという気分になります。アラートもちょくちょく飛んできて、今達成率が何パーセントだとか、達成しました!おめでとう、とか、モチベーションを高める仕掛けがあちこちに仕込んであります。


デフォルトの消費カロリー目標を、一週間毎日達成していたら、翌週には目標数値がアップしました。高くなった数値を達成すべく、ついに私は毎朝のランニングを始めてしまいました。この話はまた別のエントリーにて。

3. 時計の画面が10通りから選べる
アップルウォッチの文字盤は、「ユーティリティ」「モジュラー」「シンプル」「モーション」「アストロノミー」「カラー」「ソーラー」「クロノグラフ」「ミッキー」「特大」の10パターンが用意されています。


このうち、画面をカスタマイズできる文字盤もあります。例えば、上の「クロノグラフ」の画面は、東京時間に加え、左下にロサンゼルス、右下にニューヨーク時間を追加。さらに左上には当地の気温を追加した状態。こんな感じで、他にも天気予報を追加したり、スケジュールに登録されている次の予定を表示したりなど、文字盤をウィジェット化できるのが嬉しいところ。

4. 音楽をBluetoothで外部に飛ばせる
これ、ワークアウトには大事な機能です。アップルウォッチには、MAX2GBまで楽曲を保存できるんです。iPhoneのプレイリストを1つだけ同期でき、その楽曲をブルートゥースでヘッドフォンに飛ばすことが可能。iPhoneを持たずにです。個人的には、この機能がもっとも気に入った点&ランニングを再開できた要因です。

以上、良い点と今イチな点を4点ずつあげてみましたが、アプリのいくつかについて、詳しく掘り下げていきます。◎◯△評価を加えて。

iMessage ◎ メッセンジャー系では、やはりアップルデフォルトのiMessageが最も高機能。新着メッセージに対して、絵文字やテキスト(テンプレか音声認識)で返事ができるほか、既読のメッセージに対してリアクションしたり、新規にメッセージを作成して送ることも可能。けっこう使えますよ。


アクティビティ ◎ やはりウェアラブルデバイスだけあって、「活動の記録」には威力を発揮します。「ムーブ」「エクササイズ」「スタンド」の3つのメニューでユーザーの活動を記録し続けます。ユーザーをモチベートするアラートも、なかなか気が利いています。

電話 ◯ 案外使えます。iPhoneの電話帳から相手を選んで通話します。テンキーの装備はありません。

株価 ◯ iPhoneの「株価アプリ」に登録してある銘柄については、ウォッチでも株価を確認することが可能です。このところ、アップルの株価も好調です。


時計 ◯ ストップウォッチとタイマーは、時計アプリから分離されています。

ミュージック ◯ ウォッチのミュージックアプリは、iPhoneのミュージックアプリのリモコンとして使えます。例えば、自宅でiPhoneを外部Bluetoothスピーカーに繋いで音楽を再生しているような状況で、iPhoneからもウォッチからも再生・一時停止・音量上下などの操作が行えます。また、iPhoneが近くにない場合でも、ウォッチとBluetoothスピーカーやヘッドフォーンなどで音楽を再生することができます。


天気 ◯ 画面タップで、時間ごとの天気、気温、降水確率を表示切り替え可能です。

メール △ メールを閲覧することのみ可能。返信はできません。

Passbook ◯ iPhoneのPassbookと同機能。航空券のバーコード、アップルウォッチで改札にタッチしたらカッコいいよね。

マップ △ まあ、この画面サイズで地図見たところでねえ……。

写真 △ まあ、この画面サイズで写真見たところでねえ……。


こんなの作って遊んでますけどね。これはカスタム文字盤ではなく、単に写真。

カレンダー ◎ iPhoneを開かなくても、ウォッチで直近の予定が確認できるのは超絶便利です。


カメラ × ウォッチがiPhoneのカメラのリモコンになるんですが、iPhoneを三脚などで固定しないと使えないので、これはちょっと無意味です。

ここからはサードパーティー製のアプリです。

Clear ◯ 買い物の時に便利です。iPhoneをカバンから出さなくても、お買い物リストを呼び出すことができます。リマインド機能もある。


HUE ◯ 普通に使えます。部屋の電灯オンオフに。要するにリモコンです。


Instagram ◯ なかなか高機能。自分のポストに「いいね」がつくとアラートがきます。メニューからは「フィード」と「アクティビティ」が選べます。でもまあ、この画面サイズで写真見たところでねえ……。


LINE △ 未読のトークに対して、スタンプで返信ができます。だけど、できるのはそれだけ。既読のトークを表示することはできません。

Twitter ◎ けっこう使えます。タイムラインを表示し、リプライ(顔文字か音声入力)したりRTしたり、★も押せます。


Uber ◯ 使えます。アップルウォッチでUber呼ぶなんて、スーパークールですね。


Facebook、Facebook Messengerは未対応です。通知は届きますが、アプリが存在していない。

ざっとそんな感じでしょうか。6月8日のWWDCでは、アップルウォッチ方面のいろいろなアップデートも発表される模様です。Bluetoothの通信クオリティについても改善されるとかされないとか。

アップルウォッチ、最初はちょっとガッカリしていたのですが、2週間ほど使ってみて、かなり愛着が沸いてきました。あとは、日々のワークアウトを続けられるか? まあそこは自分次第ですけどね。

そうだ、大事なこと書くの忘れた。

実は日本では(アメリカ以外の他の国の多くでも)、アップルウォッチの便利さはだいぶスポイルされています。

それは、アップルペイが使えないから。

アメリカでは、マクドナルドはじめサブウェイやホールフードマーケットなど、20万以上の店舗でアップルペイを使うことができます。実は、ここがアップルウォッチのキモですよね。

日本でも、地下鉄の改札にアップルウォッチをカンっとタッチして通過したり、コンビニやスタバのレジでタッチで支払いしたりとか、そんな使い方ができたら最高なんですが。

さらには自宅のドアや車のドアなど、全部アップルウォッチをタッチして解錠・施錠できるようなイメージ。


あるいは、解錠・施錠はウォッチでなく指紋でもいいんですけどね。そんな時代がすぐそこまで来ていると信じています。日々の生活は、もっと便利になるはずですから。 

2015年5月17日日曜日

Apple Watchがやって来た!まずはフィジカルなレビューをば

やっとこアップルウォッチが届きました。4月10日の16時01分に予約して1カ月強、5月15日にヤマト便でやって来ました。


腕時計を買うのは実に久しぶりです。というのも、10年ほど前から腕時計を着けなくなってしまっていたからです。

腕時計を着けていると、腕が重いし、夏場は汗をかくし、時間見るだけなら携帯電話でOKじゃんって感じで、私の他にも脱腕時計派な人はたくさんいます。

しかしアップルが作った腕時計なら、買わないわけにはいきません。使命感というか義務感を覚えつつ、だけど本当は押さえきれない好奇心にかられて躊躇なくポチった次第。

私が購入したのは、ステンレススチールのブラックレザーループというモデル。8万3800円(税別)です。


アップルウォッチは、こんな純白のプラスチックの化粧箱に入ってます。Appleらしくない。正直、このプラスチックの箱は要りません。捨てるしかないんだよな(下取り価格は下がりますが)。


同梱物は、本体に加えて充電用のケーブル。このケーブル、意外と長い。iPhoneに付属しているライトニングケーブルより80センチも長い。

大きさと重さはどうでしょう。昔使っていた腕時計と並べてみます。


私のは42ミリモデルですが、他の腕時計とサイズ的には同等ですね。Androidのスマートウォッチは、Moto 360なんかにしても、ちょっとデカいなというモデルが多いですが、Appleは既存の腕時計市場に合わせてきているのがよく分かります。

重さを比べてみましょう。左からZENITH 64グラム、G-SHOCK 66グラム、Apple Watch 79グラム、TAG HEUER 92グラムといった感じ(すべてベルト込み)。重さにしても、大きさにしても、完全に腕時計のカテゴリということですね。

普通の時計と比べてみると、アップルウォッチはベルトが特徴的ですね。留め金で固定するための穴が空いておらず、マグネットで固定するタイプ。これは新しい。フレキシブリティーが非常に高い。だけど、穴が小さい(細長い)ので、ここにベルトを通すのが、毎回ちょっと面倒です。


しかしこのベルト、装着感が抜群にいい。完璧に腕にフィットしている感がありますよ。面白い。

まあそれでも、10年以上フリーだった左手首が犠牲になるわけですから、もっともっと面白いことがないといけません。

ところで、Apple Watchはパリやロンドンや東京(伊勢丹)のデパートにショップをオープンして、ファッション系のユーザーにもアピールしようとしていますが、そっち方面の方々にはかなり残念なお知らせが。


Apple Watchは、デフォルト状態では画面がブラックアウトしているんです。手首をクリっとひねって盤面を上向きにしないと、画面が現れません。

これじゃあシャレオツな皆さんには総スカン喰らいますよね。フランクミュラーとかロジェデュブイみたいな押し出しの強い文字盤を愛する人たちには特に。だって画面が真っ黒なんですから。

手首をひねって上向きにしても、画面がうまく立ち上がらないケースも間々あります。そんな場合は本体右のデジタルクラウンかサイドボタンを押せばいいんですが、若干のストレスを感じますね。両手使わないといけないからね。

そんな想定外もありながら、週末2日間にわたって使ってみた感想は「なかなか悪くないじゃん」って感じ。とてもじゃないけど「最高!」という評価にはなりません。だけど2日間で、何がグッドで何が今イチなのか、だいたい感じはつかめてきました。

明日から会社に着けていって、数日したらアプリケーションも含めた全体的な評価をしたいと思います。

アップルウォッチ、どこが凄いの? 何のために使うの?って観点で。 

再見。

2015年5月9日土曜日

iTunesのライブラリーにジャケット写真を追加する方法

今年のGWは、奥さんの海外出張などあって比較的ヒマです。そこで、この機会を利用して、いつか時間ができたらやろうと思っていたことを実行することにしました。

それはiTunesの自分のライブラリーで、ジャケット写真(アートワーク)が欠けているアルバムに、手動で写真を追加する作業です。

iTunesにMac経由でCDを取り込んだ場合、アップルのDBにジャケ写が登録されてないケースって案外多いですよね。これは、当該のアルバム(シングル)がiTunesで販売されてないケースに起こるようです。

さあ、始めましょう。作業はMacBookで行います。

まずはジャケ写を準備。Amazonのミュージックカテゴリーで、登録したいジャケ写を引っぱがしておきます。Amazonにない場合は、iPhoneでジャケを撮影。スクエアに切り取ってMacに保存します。この際、写真の容量は50Kもあれば十分。Amazonから剥がしたものは10Kないものもあるぐらい。


続いて、iTunesを起動。バージョンは12.1.2です。登録したいアルバムをハイライトし、右クリックで「情報を見る」を選択。


メニューから「アートワーク」を選択し、「アルバムアートワーク」と書かれたフィールドにジャケ写をドラッグします。あるいは、左下の「アートワークを追加」をクリックして、ファイル名を指定しても同じ結果になります。


はい、これで一丁上がり。ちなみにこのCDは、デビッド・シルビアン(JAPAN)と坂本龍一のコラボした92年のミニCD。


埋まってきましたねえ。この日はデビッド・シルビアンとアズテックカメラを中心にしこしこ投入してました。アズテックカメラにも坂本龍一が絡んでますね。



しか〜し、インド&アフリカ方面が全然ジャケ写がないわ。 まだまだ道のりは長い……。

2015年5月2日土曜日

How-old.netでデビッド・リンチ組のキャストを次々撮ってみた結果分かったこと

昨日、突然降臨したマイクロソフトの「How Old Do I Look?」、あっという間に世界中に拡散していきましたよね。

ご存じない方はこちらどうぞ。
画像から年齢を推測してくれるMicrosoft公式の機械学習サイト「How Old Do I Look?」
http://gigazine.net/news/20150501-how-old-do-i-look/

これ、アプリじゃなくてWebサービスなんですが、人物の写った写真をアップロードすると(あるいは撮影すると)、写っている人の年齢を速やかに測定するという凄いサービス。

早速、私のタイムラインにもこんなのが飛び込んできました。デビッド・リンチを囲む女子会です。


左から、シェリル・リー(現在48歳/ローラ・パーマー)、シェリリン・フェン(50歳/オードリー・ホーン)、デビッド・リンチ(69歳)、メッチェン・アミック(44歳/シェリー・ジョンソン)、キミー・ロバートソン(61歳/ルーシー・モラン)

リンチはビンゴ! 女性陣はけっこう若く出ています。ルーシーは判定不能w。帽子のせいかな。

面白そうなので、リンチ作品の俳優で次々実験してみました。

まず、クーパーはどうなの?


37歳。「ツイン・ピークス」撮影当時、カイル・マクラクランは30歳でした。

じゃ、このふたりは?


ネイディーン46歳、ビッグ・エド44歳と出ました。ネイディーン役のウェンディ・ロビーは当時37歳、エド役のエバレット・マッギルは45歳。

「ブルーベルベット」いってみましょう。


デニス・ホッパーは当時50歳、イザベラ・ロッセリーニは34歳。いずれも若く出ました。

「マルホランド・ドライブ」どうでしょう?


ナオミ・ワッツ(左)が当時33歳、ローラ・エレナ・ハリングは37歳。……18歳かぁ。

次。じゃーん「イレイザーヘッド」。


ダブルスコアきました。ジャック・ナンスは当時33歳です。

じゃあ、これはどうでしょう?「エレファントマン」。


さすがに無理でした。判定不能。

全般的に、女子は年齢低め(ネイディーン除く)、男子は年齢高めに出る傾向があるみたいです。

これって、どんなDBを参照してるんでしょうねえ。ひょっとして、Facebookだったりして。マイクロソフトはFacebookに出資してますからね。可能性ありますよね。

Facebookのプロフィールから、顔写真と年齢が紐付いた状態のデータをゴッソリ抜き出してDB化し、写真がアップされたらそのDBを叩いて年齢を割り出す。

Facebookって、女子の方は特に、実年齢より若い頃の写真をプロフィールに使っている人が多いですから、このHow-old.netの結果も実際より若めに出ると。

デビッド・リンチの年齢がビンゴだったのは、デビッド・リンチ本人のFacebookページの写真とマッチしたからじゃないでしょうか。

なーんてね。あくまでも仮説ですよ。仮説。

我が家では、奥さんのが実年齢よりだいぶ低めに出て超ゴキゲンです。素晴らしいサービスだよ、ホント。

2015年5月1日金曜日

中国の「不都合な真実」を、これでもかと暴く名著。凄いタメになるよ

今週は「橘玲の中国私論」という本を読んでました。橘玲(たちばなあきら)という人は、「マネーロンダリング」や「タックスヘイヴン」などの経済小説で知られる作家です。経済誌などで連載も多数。さらにこの人のツイッターをフォローしてみると、世界の珍しい場所をたくさん訪れていて、その旅行記がブログに載っています。どのエントリもとても刺激的です。

本作「橘玲の中国私論」は、そんな筆者の博覧強記ぶりを反映した、ちょっと変わった構成になっています。

冒頭、「中国10大鬼城(ゴーストタウン)観光」と題し、オルドス(内モンゴル自治区)のゴーストタウン紹介が始まります。

ちょっと引用しましょう。写真は本とは関係ありませんが、オルドスの景観です。

周囲に生き物の気配はなく、もの音ひとつしない夜に、住人のいない高層アパートがえんえんと続く。片道4車線の広い道路に車はほとんど通らない。ゴーストタウンとはまさにこのことで、ゾンビ映画の撮影にはぴったりだ。こんなシュールな光景はほかではまず見られない。「人間の愚行の記念碑」として世界遺産にも値するだろう。

そんなオルドスに続き、天津・浜海新区(北京から高速鉄道で30分)、中国のハワイと言われる海南島・三亜、黒川紀章が設計した河南省・鄭州など、10のゴーストタウンが30ページあまりかけて写真つきで紹介されます。旅行好きなら、絶対に行ってみたくなるような信じられない光景描写の連続です。


こちらは杭州市の天都城。3分の1スケールのエッフェル塔をメインに、パリの町並みを丸パクリしたゴーストタウン(結果的に)です。

観光案内に続いて本文がスタート。「はじめに 中国を驚くということ」で、筆者は「ここ数年のマイブームは中国の不動産バブルで、地方都市を訪れるたびに呆然とするような都市開発の残骸を目にするようになった」と述べています。「なんで中国はこんなことになったのかと各地のゴーストタウンを取材するうちに、そのゴーストタウン群はみなそっくりで、どこを訪れても同じだということに気づく。そこから出発して、中国についてあれこれ考えたのが本書である」と。

もっとも、筆者は「満州からチベット、ウイグルまで中国のほぼ全土を旅行したものの、私は中国の専門家ではない。だから一介の旅行者の記録、すなわち旅行記だ」と謙遜します。

しかしとんでもない。この本は旅行記どころか、中国に関する秀逸なドキュメントであり、歴史書であり、教科書でもあるのです。


第一章は「ひとが多すぎる社会」という見出しで始まります。

中国には13億の人口があって、省ごとにブレイクダウンしていくと、広東省:1億0430万人、三東省:9579万人、湖南省:9402万人……といった具合に、省がすでに日本と同等の国家規模の人口を擁していることが示されます。

この、人が多すぎるというのは、北京や上海を訪れたことがある方には大いに共感できるポイントだと思います。中国の都市部は、とにかく人が多い。電車はいつだって満員だし、ショッピングモールも常に大混雑で、毎日が渋谷の金曜日の夜みたいな状態。

共産党指導部の統制も、13億人の末端まではとてもじゃないけど届きません。

この「管理可能な限界を大きく超えて人口が多すぎる」ことが、中国の問題であるという主題は、本書の中で繰り返し登場します。これは誰でも理解できるでしょう。

そして次に語られる、中国人の行動規範に関する項を読むと、軽く目からウロコが落ちます。

中国は「関係(グワンシ)の社会」だといわれる。幇(ほう・パン)を結んだ(義兄弟の関係に近い)関係は、血の繋がりよりも濃い。これが中国人の生き方を強く規定している。

日本人にはとても分かりやすい事例が紹介されていました。岡ちゃんこと岡田武史監督が、中国のプロリーグ・杭州緑城の監督を務めていた時のエピソードです。本書から引用しましょう。

岡田監督はインタビューなどで何度か中国サッカーの現状について語っている。中国社会が「関係(グワンシ)」で成り立っていることはよく知られているが、サッカーでもオーナーや監督などチームの有力者と「グワンシ」のある選手はスタメンが約束されていた。これではほかの選手がやる気をなくすのも当たり前で、岡田監督はオーナーと話をしたうえで「グワンシ」のある選手を放出し、すべての選手に平等にチャンスが与えられるようにした。

こんな選手起用をしていた岡田監督は、地元サポーターから熱烈な支持を集めていたそうです。日本でも縁故やコネが幅を利かせる時代(特に田舎では)がありましたが、今はあまり感じなくなりました。いまだにそういう人間関係がプライオリティになっている社会が中国なのだと筆者は語っています。


これ以外にも、現代中国のゆがみやひずみや特異な点が次々と暴かれていきます。列挙してみましょう。

「人類史上最大」といわれる不動産バブルの正体は何か?

答えは、地方政府がタダ同然で手に入れた農地にマンションを建て、仕入れ値の1000倍以上の金額で販売しているから。利益率が1000倍ならば、例え新築のマンション群がごっそりゴースト化しても、赤字にはならないかも知れません。

中国にはなぜヤクザ組織がないのか?

それは、中国共産党がヤクザ組織みたいなものだから。なるほど、そうか。あまり詳しく書きませんが、実に正鵠を得ています。

中国社会で賄賂が横行するのは何故?

公務員の給料が安すぎるから。これは数字を見てみましょう。2001年、朱鎔基首相が自らの給料を年収29万円〜43万円と述べたそうです。14年前とはいえ、国家の首相にしてそんな金額レベル。地方政府の裁判官は月収200元(2400円・レートは当時のもの)。つまり、公務員が生きて行くには、収賄に手を染める以外にないんだそうです。

その他にも、
中国には「知日派」はいても「親日派」はいない
日本人とモンゴル人はなぜ似ているのか
日本人の2割ほどが、お酒を一切飲めない「下戸」である由来
日本が「日本」を名乗り始めた理由と原因
「中華人民共和国」「共産党」「社会主義」は日本に亡命した中国人が作った和製漢語
中国がアフリカでインフラ事業を積極的に行っている背景

などなど、タメになる情報が満載。中国の現在・過去・未来がギッシリ詰まっています。そして、日本人が知らない日本の真実についても色々知ることができて大変面白い。夢中で読みふけってしまいました。

ああ、また中国に行きたくなってきた。オルドスの鬼城、是非行ってみたい。