2013年2月27日水曜日

今年のオスカー、最大の慶事は「シュガーマン」の受賞ということで異存ないでしょ

第85回アカデミー賞が発表されました。

今年の初め、賞レース序盤は「リンカーン」が本命視されていましたが、その後ゴールデン・グローブ賞や全米の組合賞を次々「アルゴ」が制し、流れは完全に「アルゴ」。しかし、監督賞にベン・アフレックがノミネートされていなかったため、やや波乱含みの予感はありました。


オスカーでは、例年、作品賞と監督賞はセットで受賞が常識です。「スラムドッグ・ミリオネア」が作品賞だったら監督賞はダニー・ボイル。「ハートロッカー」が作品賞なら監督賞はキャスリン・ビグロー。10年に1回ぐらい、作品賞と監督賞がバラける例外はあるのですが、それでも作品賞の監督は、監督賞ノミネートの5人には入っているのが普通。しかし、今回ベン・アフレックはそこにノミネートされていないという大珍事。これをどう理解するか?

もしかしてベン・アフレックって、ハリウッドの長老たちに嫌われてんじゃないの?という疑問が湧きますよね。なんつったって「パール・ハーバー」で主演男優をやっちまったという特大の汚点もありますし。

結局のところ真相は分かりませんが、「アルゴ」は賞レースの勢いのままに作品賞、脚色賞、編集賞をきっちり確保して、ベン・アフレックもプロデューサーとしてオスカー握ってスピーチできたし、まずまず納得感の高い結果だったと思います。全般的に、受賞者は若い世代の実力者が順当に選ばれて、うまく「若返り」が実現できた感じ。助演女優賞のアン・ハサウェイとか、主演女優賞のジェニファー・ローレンスとかね。司会のセス・マクファーレンもなかなかハマったと思いましたが、「来年はもうやんない」って言ってるとか言ってないとか。


さて、今年の授賞式で私がもっとも注目していた作品はこれ。


「シュガーマン」です。長編ドキュメンタリー部門でノミネートされていた作品。これが凄い話なんですわ。「世の中にこんな話が本当にあるのか」と誰もが思うはず。

1960年代後半に、アメリカでレコードデビューしたロドリゲスというアーティストにまつわる物語です。ロドリゲスは「ボブ・ディランに匹敵する才能」と称され、ブッダレコード傘下のレーベルからアルバムを2枚出します。しかし、このアルバムがいずれも不発。そのままミュージック・シーンから姿を消してしまい、「失意のあまりステージでピストル自殺した」「いや、本当は焼身自殺だ」など噂されながら、人々の記憶から完全に消えてしまった。

そんな経緯ですから、おそらく、このロドリゲスというミュージシャンのことを知っている人は、当時もその後も日本にはほとんどいなかったはずです。もちろん、私も今回の映画を見て初めて知りました。しかし、ロドリゲスの楽曲は数奇な運命をたどるのです。ロドリゲス本人のまったく知らないところで。

北米大陸の反対側、アパルトヘイト真っ只中の南アフリカで、ロドリゲスの楽曲は歌い継がれていました。誰かがアメリカ西海岸から南アに、彼のレコードを持ち込んで愛聴&拡散していたんでしょうね。アパルトヘイトの圧政に反対するリベラルな若者たちの間で、ロドリゲスの楽曲はアンチ・アパルトヘイトのアンセムになっていました。そもそもロドリゲスの曲は、年代的にプロテストソング。だから、南アの体制に反抗的な人々にうまくマッチしたというのがミソ。

アルバムは勝手にCDにプレスされ、ラジオでオンエアされ、南アでは国民の2人に1人がロドリゲスを知ってる、という状況になっていました。しかし、アーティストのプロフィールはまったくの謎に包まれ、件のピストル自殺説、焼身自殺説にたどり着くのみ。90年代、インターネットの時代になって、現地の音楽ジャーナリストが使命感に駆られてロドリゲスの消息を追い始めます。2枚のアルバムを出した後、彼はどんな人生を送ったのか。音楽はやめたのか。本当に自殺したのか。

映画の原題は「Searching for Sugarman」。シュガーマンを探して。「シュガーマン」というのは、ロドリゲスの代表曲の一つです。

ジャーナリスト氏は、「ロドリゲスというミュージシャンをご存知ありませんか?」という書き込みを、写真とともにインターネットのあちこちの掲示板に放り込んでいきます。そんな草の根な捜索をはじめてしばらく経った頃、アメリカ北中部のとある町から返信が! 「その人物は、私の父だと思います」と。

ここから先は書けません。ほんとヤバい。


「シュガーマン」、私にとって今年のベストワン映画です。まだ2月ですが、これが今年のベストだと断言できる。もちろん、自分にとってのベストですよ。

この映画を見てからというもの、毎日「シュガーマン」のサントラを聴いています。映画を見てしまうと、ロドリゲスの音楽が、頭に残って離れなくなるんです。

3月16日から公開です。必見。


2013年2月5日火曜日

ロンドン、おまけ


マラケシュ(RAK)からロンドン(LGW)に帰ってきました。1泊して、翌日日本に帰る旅程。

ロンドンに着いたのは16時過ぎでしたが、ホテルに着いたらもう日が暮れてしまっていたので、遊びに行く気分でもありません。とはいえ、せっかくのロンドンなので、コベントガーデンのアップルストアをひやかしに行ってみましょう。


ここは、世界で一番フロア面積の大きなアップルストアだそうです。ライブイベントなんかもしょっちゅう行われているみたい。確かに広い。銀座のアップルストアとどっちが家賃高いだろ?

日本では見かけないガジェットもありますね。「zeo」ってやつ、気になりますね。睡眠中の脳波を測定するんでしょうか?

面白いのは、このアップルストアのすぐ近くには、アップル・マーケット(Apple Market)があるんですよ。Apple Marketといっても、リンゴを売ってるわけではなく、アンティーク屋さんなんかが並ぶマーケット。

ワルザザートで盗まれたiPhoneの代替機をアップルストアで買おうかなと一瞬思ったのですが、64GBモデルのiPhone5が699ポンド。およそ10万円!

タッカい。

SIMフリーiPhone買うなら、やっぱ香港ってことですか。気になったので、香港のAppleサイトをチェックしたら、64GBのiPhone5が8万円ぐらいです。この2万円の違いは何? 為替なのか、タックスなのか。

その後、チャイナタウンで夕食にしたのですが、日本食のレストランがかなり浸食してきていますね。お好み焼きの店とかできてて驚いた。

翌日は、ヒースロー(LHR)から帰国です。ヒースローエクスプレスに乗ったら、アプリの広告が車内のディスプレイに掲載されていました。


早速DLしてみます。駅でキップ買わなくても、アプリで購入できる仕組みです。このアプリを持っていれば、ギリギリでもキップ買わずに飛び乗ることができますね。ヒースローエクスプレスは改札がないですからね。

車内には無料のWiFiが飛んでいるから、ソフトバンクのiPhoneでも買えるんです。
……でも、このWiFiがクッソ遅いんだよね。要注意。

このアプリ、次回ロンドンに行った際にチャレンジですね。

2013年1月30日水曜日

モロッコで役に立ったアプリたち

アンロックのiPhoneで旅をするのが旨です。なので、旅行に行くときは、目的地で役立ちそうなアプリを予めダウンロードして乗り込みます。

今回のモロッコ旅行では、不幸にもワルザザートでアンロックiPhoneを盗まれるという不幸にも見舞われましたが、それまではiPhoneを使い倒していました。

AppStoreで「Morocco」で検索すると、いくつか出てきます。モロッコ関連無料アプリ、結果的に、こんな感じになりました。


正直、アプリはまだまだ発展途上の印象。主に3つほど使っていました。

日本語が対応しているものが一つだけありました。「fotopedia」ってのがそれ。


写真がゴージャスです。左の「i」ボタンをタップすると、ロケーションの解説が現れます。


主要なランドマークと地図が連動していて、なかなか便利なのですが、オンライン状態でないとまったく動かないのが玉に瑕。あと、写真が高画質すぎて、モロッコの回線だと超重い。惜しいアプリでした。これ、iPad版もあって、そっちの方がオススメ。fotopediaはモロッコ版のほかに、イタリア、中国、日本版もあります。

あと、「CITY WALKS」ってアプリのマラケシュ版もちょこちょこ使いました。ガイドブックを3冊ほど自炊してPDFで持っていってはいたのですが、外出時は、やはりアプリの方が楽です。


この「CITY WALKS」はオフラインでも動きます。観光地の一覧に「MUST SEE」マークがついているので、行くか行くまいか迷った時は便利ですね。英語のみ。


「Triposo」もなかなか便利です。モロッコ全土をカバーしていて、マラケシュの場合は、8つのオススメ観光地や、近隣のレストランやカフェ、ホテルの情報もぶら下がってます。このアプリも、基本、オフラインで動きます。これも英語のみ。


でも、結局一番多く使ったのはGoogle mapです。これは、どこの国に行っても大体同じ。


目的地を入力し、現在地からのルートを表示し、電車やバスやタクシーなどを使ってたどり着く。

ご存知の通り、Apple Mapsよりは遥かにまともなGoogle mapだけど、モロッコでは精度が低いですね。結構苦労させられました。

正確に住所を入れても、地図上でピンが落ちるポイントが数十メートル単位でずれていることがほとんどでした。おかげで、色んなところで人に道を聞くハメになりました。
で、みんないい加減なんだよね。「あっちだ。次の角を右だ」「この道をまっすぐ行ったところだ」とか自信満々で教えてくれるんですが、みんな言うことがバラバラ。一度でたどり着けた試しがない。

これって、イタリアとか、インドなんかと一緒ですね。自信満々でウソをつく人々。

今回、「Google mapがいい加減な国は、人々もいい加減だ」というのが、私の立てた仮説です。

2013年1月26日土曜日

マラケシュのお洒落ショップでiPhone用拡声器を買ってみた

復路、アトラス山を超えてマラケシュに帰ってきました。


マラケシュのランドマーク、クトゥビア・モスクの塔とヤシの木がお出迎え。

モロッコ最後の夜は、メゾン・アラベというリヤドに投宿です。リヤドというのは、「屋根のない中庭のある邸宅風の建物」という意味だそうで、部屋数のそれほど多くないこぢんまりした宿です。大手チェーンホテルとは対極にある、モロッコの定番アコモデーションです。

ありましたよ。屋根のない中庭。こじんまりと。左上の窓ガラスの向こう側が我々の泊まった部屋です。


レストランはプールと隣接しています。モロッコでは、プール見ながら食事するのが一般的なのか。2日前に行ったレストランも、店の中にプールがあったし、マムーニアも朝食はプールサイドでした。


このリヤドは、スタッフのサービスが素晴らしく、リピーター多数とのこと。帰りがけには、モロッコのイミグレに提出する出国カードが記入済み(!)で用意されてました。そういえば、パスポート一晩預かられっぱなしだったんだがこのためだったのか。これは凄い。痒いところまで手が届いてるわ。

こんなにサービスよくて、マムーニアの3分の1の価格ですよ。いや4分の1かも。嬉しくなりますねえ。


さて、マラケシュでもっとも有名な観光地といえば、ジャマー・エル・フナ広場。世界遺産。


ここを訪れるなら、夕方がベスト。そして夜まで粘る。カフェの屋上が人気です。絶好の撮影ポイントなんですよ。


露店が建ち並び、色々な食べ物を提供してくれます。これはエスカルゴ。


羊の頭かな。ちょっと客引きがしつこいんだ。「アタマ! アタマ!」とか言って。


テーブルにパンとジュースが並んで、学校の給食みたいです。


夜になると、どんどん人が出てきてお店も賑わってきます。


広場の奥にはスークがあって、骨董品やら民芸品やらカーペットやら履き物やら、ありとあらゆる物が売られています。


ここも客引きがうるさいんだよね。「ジャポネ!」「スズキ、ホンダ!」とかやたらと声をかけてくる。

スークではちょっと買う物がないかなって感じの我々ですが、マジョレル庭園の入り口にナイスなお店がありました。

マジョレル庭園は、フナ広場からはちょっと離れますが、例のバス・ツーリスティックを乗り継いで行くことが可能。イブ・サンローランが愛した庭園として有名です。


この青い色がふんだんに使われています。ラピスラズリ? 庭には、サンローランの墓もあります。

この庭園の向かいにあるのが、「33 Rue Majorelle」という雑貨屋。


入り口には、草花で作った顔が2つ。熊か? ガンダルフか? 雑貨屋というか、セレクトショップですね。食器や洋服なども売っていて、どれもかなりのハイセンス。


モロッコ名物のバブーシュも、この店にあるものは何だか高級です。


Tシャツのコーナーには、ジャッキー・チェンのポスターもあった。「蛇拳」でしょうか。

で、この店の2階で見つけたのがこれ。


iPhone用スピーカー。スピーカーというか拡声器。メガホン。「Cornet Acoustique」という商品名がついてました。

Facebookに写真を上げて「買おうか迷ってる」とつぶやいたところ、「買え!」のコメントがたくさんついたので買っちゃいました。

迷った理由は2つあって、値段が8500円とちょっと高いなというのが一点。もう一点は、イージージェットで運搬する際、割れてしまうリスクです。お店のお姉さんに、プチプチでぐるぐる巻きに包んでもらって、無事に日本へたどり着きました。

正直、音はまあまあと言ったところ。AMラジオを聞いてるみたいな音質です。iPhoneのスピーカーの音を拡声してるだけですからね。

それにしても、なかなかお茶目な商品ですよね。何か、豚の蚊取り線香ホルダーに似てないか?

モロッコでiPhone周辺機器を買うことになるなんて、まったくの想定外でしたよ。

2013年1月21日月曜日

アトラス・スタジオで不思議発見!

iPhoneは失いましたが、まだカーナビ(GARMIN)は元気です。我々にとって、一生忘れることのできない町となったワルザザートで、まだやることがあります。

GARMINに目的地として入力したのは、Atlas Film Studio。ワルザザートには、映画スタジオが3つあって、その中でも随一の規模を誇るのがアトラス・スタジオです。


市街地から、車で15分も走れば到着です。正面玄関。もう、うさん臭い!


ゲートをくぐると、こんな張りぼて感満載のスーパーカーがお出迎え。おいおい、大丈夫か、このスタジオ?

受付にいくと、ちょうどスタジオツアーが出たばかりだというので、いくつかのセットをすっ飛ばして先行するツアーを追いかけます。

……しかし、ここはすっ飛ばせないでしょ!


「クンドゥン」のオープンセットです。これには驚愕しました。日本では小規模な公開だったので、ご存知ない方もいるでしょうが、巨匠マーティン・スコセッシの監督作品です。今のダライ・ラマが、中国共産党の弾圧から逃れてインドに亡命政府を作る話ですよ。いやー、モロッコで撮っていたのか。


「クンドゥン」遺跡はけっこう遺っています。これは貴重だなあ。


いろいろ見学していくと、マーティン・スコセッシは、「最後の誘惑」もここで撮っていました。リピーターだったんですね。

もっと凄いヘビー・ユーザーがいました。


リドリー・スコットです。遠くに見えるは、「キングダム・オブ・ヘブン」のために建てたエルサレムのセットだそうです。

その他にも、「グラディエーター」「ブラックホーク・ダウン」、弟の故トニー・スコットも「スパイ・ゲーム」でこのスタジオを使ってます。

このスタジオに隣接するホテルのバーの名前がこれですもん。


スタジオ・ツアーは、徒歩でてくてく歩いて小一時間で終了します。ガイドさんは、このセットは何とかの映画で使われたって説明するだけ。もうちょっとねえ。気の利いたエピソードがあると大分違うのにね。

例えば、「『スパイ・ゲーム』の時に、ブラピは毎日二日酔いで撮影にやってきては、この『ハムナプトラ2』のセットの陰で昼寝してたんだよ」とか何とかねえ。ちょっと残念でした。


これが「ハムナプトラ2」のセット。だいぶくたびれてますが。


こっちは、モニカ・ベルッチがクレオパトラを演じた、「ミッション・クレオパトラ」のセット。これ、日本では公開されてなかったよなあと思いきや、ちゃんとDBにありました。共演は、先日フランスを捨ててロシア国籍を得たことでも話題のジェラール・ドパルデュー。凄いメンツです。

残念ながら、「グラディエーター」遺跡はほとんどないですね。ここがそうでは?と思ったところは、「グレートジャーニー・オブ・イブン・バトゥーダ」って映画のセットでした。そんな映画、日本人は知らんもん。

でも、映画好きならきっと興奮しますよ。前の日に行ったアイト・ベン・ハドゥと両方でロケしている映画が多いので、両方行った方がいいですね。

BGMには、教授の「シェルタリング・スカイ」をお忘れなく。

2013年1月20日日曜日

そして、事件は起きた。ワルザザートの長い夜

ベルベル・パレスにチェックインし、夕食を摂りに町へと繰り出しました。ワルザザートは人口6万人程度の小さな町。これといった盛り場もないようで、ホテルで夕食でも良かったんですが、トリップアドバイザーで調べたところ、高評価のタジン屋がホテルから徒歩圏内にあることが分かり、早速突撃です。


これも「シェルタリング・スカイ」で使われたという、ワルザザートのカスバを通過したところに、小さな広場に面して目指すレストランがありました。

隣接して2軒のレストランが並んでいたため、どっちがどっちか分からず、確認のためにiPhoneを取り出します。奥さんにiPhoneを渡すと、私は隣のレストランに、店名とメニューを確かめに行こうと奥さんのそばを離れました。

するとその時。

背後から男が現れ、電光石火のごとくiPhoneを奪い取ると、一目散に走って逃げたのです。

やられた!

「こらこらこら、ちょっと待て! 泥棒ぉおおおお! 誰かそいつを捕まえてくれ!」 

我々も全速力で後を追いかけます。

男は、暗がりの道をずんずん走って逃げます。周りの人たちも騒ぎに気づき、気がつくと少年たちが何人か一緒に走って追いかけています。

しかし、男の逃げ足が速い上に、曲がりくねった路地に入ってしまったので、ほどなく見失ってしまいました。

追跡を諦め、逆上した気分を落ち着かせながらもといた場所に戻ります。少年たちが何人かついてきます。


さあ、この後どうするか。まずは状況を整理しよう。

アンロックのiPhoneを盗まれた。盗られたものは他にない。ケガもない。 犯人には逃げられた。恐らく半径1〜2キロぐらいにはいるだろう。そしてギャラリー(少年たち)が数名ついてきている。

まず、この少年たちが我々の味方なのか、それとも犯人とグルなのか判断がつきません。何しろこの町には、さっき着いたばかりで何も分からない。だけど、少年のうちの1人から、困っている我々の手助けしたいという雰囲気が感じられたので、ひとまずこの少年を頼ることにします。

「取りあえず、警察を呼んでくれる? あと、WiFiの使える場所あるかな?」

こっちにはまだソフトバンク契約のiPhoneがあるので、もう、あれをやるしかない。

そうです。Find iPhoneです。少年の知り合いのレストランに入り、WiFiのパスワードをもらって「ピコーン…………」


しかし、見つかりません。犯人は電源を切っていました。こりゃ常習犯の可能性もあるな。

ここで思案橋。

Find iPhoneには、パスコードでロックする「ロック」機能と、相手が電源を入れたところで通知を受ける「見つかったときに通知」機能もある。つまり、追跡を続けるというオプションも考えられる。一方、遠隔操作でiPhoneの中身を消す「iPhoneを消去」という機能もある。しかし、これを実施してしまうと、もう二度とFind iPhoneでは見つからない。こちらは、追跡を諦めるというオプションです。

もしも、気づかずにiPhoneを紛失したというのなら、迷わず前者でしょう。しかし今回のは最初から犯罪です。しかも異国の地。犯人の居場所をつきとめたところで、徒手空拳で突入するというのはあまりに危険です。もちろん、お巡りさん同伴ならば話は別ですが。

少年に警官を呼んでもらっていたはずなんですが、それらしき人物はどこにもいないし、来る気配もありません。そもそも、言葉が今イチ通じてない。どうやら、自分たちが警察署に行く方が早いようです。

さっきの少年に、「我々は警察に行く。警察はどこにある?」と言うと、どこからかタクシーを呼んでくれました。少年に少しお金を渡してお礼を言い、タクシーで警察署に。署の入り口に立っているお巡りさんに、身振り手振りで事情を説明し、中に入れてもらいます。入り口のベンチで待つように言われた時には、さっきの「思案橋」からもう15分ぐらい経っています。犯人はさらに遠くへ逃げているか、あるいは獲物を処分するための準備にかかっているかも知れない。

我々はここで判断をくだしました。盗まれたiPhoneの「データを消去」するのです。

もう夜の8時半を回っています。思い起こせば、今日は並々ならない集中力を要する長い山岳ドライブをこなした上に、さっきは泥棒を追って数百メートルの全力疾走も強いられました。これからお巡りさんと一緒に、また暗がりの狭い路地に行き、信号を頼りに「あっちだ、こっちだ」とiPhoneを探す姿を想像するのは困難です。しかも、その間国際ローミング料金が青天井で加算されるわけですよ。


やめたやめた。iPhone探すのは諦めた。もう、データ消しちゃう!

警察にWiFiは飛んでいません。設定→一般→モバイルデータ通信→データローミング「オン」で、パケ放題対象外のモロッコのネットに繋ぎます。

Find iPhoneから「iPhoneを消去」をクリックし、盗まれたiPhoneの中身を消去します。

……消去完了。これでもう、Find iPhoneを使った捜索はできません。 データローミングをオフに戻します。

そのうち、お巡りさんに呼ばれて別室へ。警察の人々はあまり英語を解さないのですが、とにかく事件の一部始終を2人で一生懸命説明し、調書を作成していきます。珍しがって、色んな人が取り調べの様子を見に来ます。

「この日本人、どうしたんだ?」「iPhone盗まれたんだよ」というような会話が何度も交わされているのが分かります。

そのうち、広場で世話になった少年と、そのお兄さんまでやってきました。通訳のオッサンも現れました。アラビア語(ベルベル語?)から英語に通訳してくれる人。

調書を作りながら驚いたことには、犯人を追っている間は、とにかく追いかけるのに必死で、我々、犯人の特徴をほとんど覚えていなかったということ。だいたいの身長と、着ていた上着の色ぐらい。「肌の色は?」「何色のズボンを履いてた?」「髪の毛は?」……ほとんど答えられません。

1時間ほど警察で過ごし、終わった時には夜9時半を回っていました。警察署長がホテルまで送ってくれます。感謝。まだ開いていたホテルのイタリアンレストランで夕食&反省会。


こんな、取っ手つきのワイン(CAESARという名前のモロッコワイン)を飲みながら、異国で犯罪事件に遭遇したことについて2人で振り返ります。

あの時、iPhoneはもともと私が持っていたんです。だけど、奥さんが「ちょっと貸して」って私からiPhoneを受け取った。しかも、そのタイミングで私は「ちょっと隣を見てくる」と2〜3メートル離れた隣のレストランを見に行った。その瞬間を犯人は見逃さなかったわけです。つまり、しばらくの間、尾行されてたかも知れない。いずれにしろ、我々は狙われてた。

しばらく前にYouTubeで話題になった、この動画を思い出しましたよ。地下鉄でiPhone盗まれる瞬間。



本質的に、同じ手口です。

我々は、もっと危機察知アンテナを研ぎ澄まさなくてはいけませんでした。だけどまあ、今回は被害がiPhoneのみで済んだことは不幸中の幸いですね。あと、少年たちや、警察の人たちが親切にしてくれたので大分救われました。


翌日の午前中、また別の警察オフィスに行って、盗難に遭った証明書を作ってもらいました。


これで、海外旅行保険の保険金の請求を日本に帰ってから行うことができます。iPhoneを買った時の領収書が別途必要です。

今回の事件、それなりに凹みましたが、海外旅行保険のおかげで被った損害は多少なりとも取り返せる見通しです。クレジットカードに付帯している保険ですが、こういう目に遭うと、あるとないとで大違い。もちろん、現地でちゃんと警察に届け出る。それから、領収書はちゃんと保管しておく。この2点がポイントですね。

しかしまあ、絵に描いたようなひったくりでした。海外でiPhone使う方はくれぐれもご注意ください。女性の方は特に。去年、北京でもそんなこと言われたっけ。

さてと、書類ももらったし、気を取り直してスタジオ見学にでも行きますか。

追記;
旅行保険の保険金請求はつつがなく受理され、申請からおよそ1カ月後に保険金が振り込まれました。iPhoneは1年半前に買ったものですが、免責分と減価償却分を差し引いた分ということで、買った値段の80%が返ってきました。メッチャ嬉しかったですよ。警察署で頑張った甲斐があった。

繰り返しますが、盗難に遭ったら現地でちゃんと警察に届け出る。それから、ガジェットの領収書はちゃんと保管しておく。この2点がポイントですね。

映画「シェルタリング・スカイ」の舞台、アイト・ベン・ハドゥ

マラケシュからワルザザートへとレンタカーで向かう途中、アイト・ベン・ハドゥという所に立ち寄りました。ここは、世界遺産にもなっている古いカスバ(城塞都市)で、「シェルタリング・スカイ」や「グラディエーター」なんかが撮影されたことでも有名。

翌日は、ワルザザートで映画スタジオを訪問予定なんですが、実はモロッコ南部は、往年の名作映画のロケ地だらけなんです。


N9号線を外れて、舗装の悪い道を15分も走ると、ドドーンと城塞が迫って来ます。カスバが見えてきてから、そこに辿り着くまでがかなり不案内なのですが、まあ何とかなりました。


これが午後4時ぐらいの日差しです。西日を浴びるカスバがビューティフォー。アイト・ベン・ハドゥに行くなら、夕方がオススメです。

思わず、iTunes Storeで坂本龍一の「シェルタリング・スカイのテーマ」を購入。


お土産屋さんが数軒営業していて、お店の人たちは、このカスバに住んでいるそうです。でも、ほとんどは廃墟なので、人口は数十人って感じです。



上から見たカスバ。

てっぺんはこんな感じ。パノラマでドン! シェルタリング・スカイのテーマ、再生w


若者がまったりしています。時間の流れが、実にゆっくりです。

ワルザザートまで行かずに、ここで1泊ってのもアリでした。そうすれば、あんな事件にも遭わずに済んだのに……。

日が暮れてきたので、アイト・ベン・ハドゥを後にし、30分ほど走ってワルザザートへ。これが今晩の宿、ベルベル・パレスです。日本人団体もいる!


ということで、事件の話はまた次回。


追記;


日本に帰ってから、「シェルタリング・スカイ」のDVDを改めて見直して驚いたことには、アイト・ベン・ハドゥと思しきシーンが全然出てこない! DVDの映像特典に、ベルトルッチ監督や脚本家によるオーディオ・コメンタリーが収録されていたので、そちらを聞きながらもう一度本編を見てみました。すると、主なロケ地は、タンジェ、テトゥアン、ザゴラ、タムヌガルトであることが分かりました。さらに、映画の中盤過ぎ、砂丘のシーンが印象的なシークエンスに差しかかると、衝撃のコメンタリーが。「告白しよう。このシーンはモロッコじゃなくて、アルジェリアで撮った。ベニアベスという場所だ」。


気になってWikipediaで調べると、映画の原作者ポール・ボウルズは、ずっとタンジェに住んでいたんですよ。

なーるほど。そういうことでしたか。モロッコ情報、結構いい加減だなあ。このエントリのタイトルも変えた方がいいかもなあ。……いや、敢えて変えませんが。

ま、いずれにせよ「シェルタリング・スカイ」は、今回のモロッコ旅行の重要なメタファーであったということにブレはありません。たとえ、実際にロケがそこで行われていたかどうかは二の次ですから。

それにつけても、ヴィットリオ・ストラーロの撮影が素晴らしい。月明かりに浮かぶ青い砂丘や、スークの迷路をステディカムで移動する時の光と影の具合とか。プロの仕事ってこういうもんだよなとため息を一つ。