2016年2月24日水曜日

凡百の映画とはステージが違う「レヴェナント」。イニャリトゥ×ルベツキによる白魔術

来週の月曜日(2月29日)はアカデミー賞授賞式。ということで、本年度アカデミー賞で12部門にノミネートされた、オスカーレースの本命中の本命「レヴェナント 蘇えりし者」を見てきました。

監督はアレハンドロ・G・イニャリトゥ。名前の表記がいつの間にか変わっています。ミドルネームの「ゴンサレス」がただの「G」になってる。


イニャリトゥは昨年のオスカー作品賞受賞作「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を監督した男です。2年連続受賞を目指しています。そして撮影監督は、同じく「バードマン」でイニャリトゥと組んで魔術的な映像を披露したエマニュエル・ルベツキです。彼は3年連続の受賞にリーチをかけています。そして主演は、オスカー5度目のノミネートにして初の栄冠をほぼ手中に収めている(と目される)レオナルド・ディカプリオ。

舞台は19世紀のアメリカ西部。季節は冬。未開拓地に猟行に出たハンターのうちの一人が、熊に襲われて重傷を負い、仲間に見捨てられ置き去りにされてしまう。

極寒の大地で奇跡的に一命を取り留めた彼は、たった一人でサバイバルを開始します。

たった一人でサバイバル。なんか「オデッセイ」みたいです。

彼は、自分を置き去りにし、息子を殺した仲間へ復讐するために、不屈の決意で旅を再開します。

はい、この映画は「復讐の物語」でした。「オデッセイ」には存在していなかった「敵役」がいます。

それにしても映画の濃度が圧倒的です。重い、深い、痛い。

そして、ルベツキのカメラがまたまた凄いことに。前へ後へ、右へ左へ、上へ下へ、そしてディカプリオの周りをぐるぐると、とにかく動く動く。

「バードマン」の時は、冒頭から最後までほぼ99%がステディカムによるワンカットでしたが、今回もかなりの部分がステディカムによる移動撮影です。しかも今回はパン・フォーカス。広角で撮影しているので、目の前にいるディカプリオにも遠くの風景にもまんべんなくピンが合っています。


プレス資料より引用してみましょう。

「アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督と撮影監督のエマニュエル・ルベツキは、早い時点で本作のルールを決めた。第1は、ヒュー・グラスの旅の自然な流れを維持するため、時系列に沿って撮影を進めること。第2は、当時存在していなかった人工照明を使わず、太陽光と火による光だけを使って撮影すること。第3に、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で有名になった長回しの撮影方法を、まったく違う効果を狙って利用することだ」

「イニャリトゥは、本作を、光と影がリアルに息づくキアロスクーロ画(明暗法)のようなスタイルで撮影したいと考えた。「バードマン」が音楽から発想を得たのと同じように、本作は絵からひらめきを得た、とイニャリトゥは語る」(引用終わり)


太陽光と火の明かりだけで撮影するだなんて、まるでテレンス・マリックじゃないですか!

テレンス・マリックは映画界の「伝説」と言われる監督ですが、その伝説のきっかけとなったのが「天国の日々」です。この映画は、殆どのシーンがマジックアワーの時間帯に撮影されており、全編がまるで天国で起こっているかのような光の効果を醸し出しています。1978年のアカデミー賞で撮影賞を受賞しています。

そして、「レヴェナント」の撮影監督エマニュエル・ルベツキは、「ニュー・ワールド」「ツリー・オブ・ライフ」「トゥ・ザ・ワンダー」と、21世紀に入ってからのマリック監督作3本で撮影を担当しているのです。なるほどな〜。哲学的な「ピュア映像倶楽部」って感じ? この人たちのやってることは、もはや芸術じゃないよ、哲学だよ。

何というか、凡百の映画人とは映画作りのレベルが遙かに違うと感じます。ここを超えようというとてつもなく高いハードルを設定し、産みの苦しみにもがきながらもそこを見事に超えてきている映画。そんな風に感じます。「バードマン」が黒魔術だとしたら、「レヴェナント」は白魔術ですね。

公式の予告編が重苦しいので、こっちを貼っておきましょう。27秒におよぶワンカットと、それに続く41秒のワンカット。合計1分07秒の長回しシークエンスです。


馬に乗って併走しながらステディカム回してるんでしょうね。最後、カメラはガケから落ちなかったんでしょうか。

そうそう、坂本龍一の音楽にもシビれますよ。4月22日公開。オスカー何個とれるかな。

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