2016年2月3日水曜日

W杯は賄賂ズブズブという事実。「FIFA 腐敗の全内幕」が本当にヤバい

このところ、当ブログが書評ブログと化してきていますが、もう1冊行きます。ここで紹介する本は、本当にヤバいやつです。

驚きに次ぐ驚き。怒りに次ぐ怒り。もうね、読んでいるうちに怒りを通り越して、気分が悪くなるレベル。その名も「FIFA 腐敗の全内幕」(文藝春秋・刊)。


FIFAの前会長ブラッターと、他のFIFAの理事たちが、いかに真っ黒でタチの悪い汚職行為を連綿と行っていたかが詳細に暴露されています。

この本で明らかにされるのは、はっきり言って、FIFAの組織理念はマフィア以外の何ものでもないということ。親分ブラッターと24人の子分(理事)たちが、企業舎弟的なサッカー周辺産業からやりたい放題搾取しまくり、いかに非合法に巨万の富を蓄財してきたかという、空前絶後のブラック・ノンフィクションです。

この大スクープをものにしたのは、英国人記者のアンドリュー・ジェニングス。10年間にわたってFIFAの汚職について調べ上げ、BBCの番組で5回にわたって放映したことで、ブラッターが2015年10月に辞任するきっかけを作りました。過去に、オリンピックに関する汚職について3冊の著書があり、スコットランドヤードの汚職についても出版している「汚職暴露のプロ」ですね。

本書の冒頭にある、登場人物一覧から引用しましょうか。人物名と肩書きと、彼らが行った悪事がサマってあります。なんて分かりやすい。肩書きは、この本が出版された2015年10月当時のものです。
ジョアン・アヴェランジェ Joao Havelange(ブラジル) 
前国際サッカー連盟(FIFA)会長。1974年から24年間にわたって会長を務める。職員を愛人にし、経費を湯水のように使うなど組織を私物化した。スポーツイベント会社ISLから多額の不正資金を受領する。会長時代にFIFAから横領したカネは総額で4500万ドルともいわれる。外交パスポートを持って、チューリッヒへの出張の度に金の延べ棒を持ち帰っていた。
リカルド・テイシェイラ Ricardo Teixeira(ブラジル)
元ブラジルサッカー連盟(CBF)会長、元FIFA理事。アヴェランジェの娘婿。ISL社を通じて950万ドルもの賄賂を受け取る。またCBF会長という立場を利用し、ブラジルサッカー界に流れ込むスポンサー料などを横領した疑いがある。著者の調査によりISL社からの賄賂が露見、責任をとる形でブラジルサッカー連盟会長を辞任する。
ゼップ・ブラッター Sepp Blatter (スイス)
FIFA現会長。75年にアディダスのホルスト・ダスラーの仲介で、アヴェランジェ前会長の鞄持ちとしてFIFAに就職。以来、忠実な官僚として事務総長までのぼりつめ、98年にFIFA会長に就任。アヴェランジェをはじめとするFIFA理事の汚職を知り尽くしそれを力の源泉として会長職を四期つとめるが、五選直後に汚職の責任をとって辞任を宣言。
この3人がメインキャストです。他にも、元FIFA副会長のジャック・ワーナー(トリニダード・トバゴ)、元FIFA理事のチャック・ブレイザー(アメリカ)、アフリカサッカー連盟会長のイッサ・ハヤトウといった、これまた真っ黒い幹部連中が登場するのですが、あまり長くなってもアレなので、メインの3人の話にフォーカスします。


写真の左がアヴェランジェ。真ん中のペレをはさんで、右がテイシェイラ。一応、ペレはこの本には登場しません。彼はクリーンだと信じたいですね。

以下、ブラジルサッカー連盟会長だったテイシェイラが、ブラジル代表をナイキに売った話を引用します。これはFIFAそのものの案件ではありませんが、テイシェイラはアヴェランジェの娘婿なので、一心同体と考えていいでしょう。
ナイキとの片務契約
1989年に、リカルド・テイシェイラは、犯罪組織と関わりがあった義父の後ろ盾で、ブラジルサッカー連盟の会長に就任した。ナショナルチームは、アンブロ社のユニフォームを着用する契約になっていた。1994年のアメリカワールドカップで優勝したあと、ブラジル代表チームの価値が急上昇した。その後すぐに秘密の会議がくり返し開かれるようになり、1996年7月に、テイシェイラはニューヨークへ姿を消した。この時のニューヨーク出張には、ブラジルサッカー連盟のほかの役員は伴っていない。
オレゴン州ビーバートンからやってきた、大勢のアメリカ人ビジネスマン。大西洋の向こうの、ヨーロッパの租税回避地(タックスヘイブン)で登記された会社の社員たちが、弁護士と1万1500字の書類を携えて、彼を待っていた。テイシェイラはその書類に署名をし、ブラジルサッカーの支配権をナイキに引き渡した。
ナイキ側は、租税回避地(タックスヘイブン)経由でテイシェイラに1億6000万ドルをーーさらに追加も払うという約束とともにーー支払い、それと引き換えにブラジル代表の選手を選ぶ権利と、誰がどこでいつプレイするかを支持する権利を買った。試合数は50回。彼らはリオのブラジルサッカー連盟内に、自分たちのショップを設ける権利も取得した。
なんてこと! セレソンのユニフォームだけじゃないんですよ、ナイキが得たのは。「選手を選ぶ権利」「誰がどこでいつプレイするか」まで手に入れてる。CBFじゃなく、ザガロ監督でもなく、ナイキがセレソンを編成してたわけですよ。しかもその対価(の一部)は、CBFではなく、会長の個人口座に支払われているんです。200億円近いキャッシュが。


写真は、「テイシェイラにノーを!」のプラカードを持ってデモするブラジル人。別の案件で、テイシェイラに収賄疑惑が発覚した時のもの。

そもそも、いつから一連の黒い取引がFIFAで始まったのか? それは1974年、アディダスの幹部であったホルスト・ダスラーがジョアン・アヴェランジェと接近したのが源流のようです。
ホルスト・ダスラーとアディダスの野望
「私をFIFAの会長にしてくれたら、私も君も金持ちになれる」と、アヴェランジェはドイツの商人に声をかけた。彼(ホルスト・ダスラー)の一族はアディダス・ブランドをバイエルンで立ち上げ、ホルストはシューズからシャツからボールまで商売を拡大し、自社をグローバル企業に押し上げた。休むことを知らず、情けも知らない天才は、それでも満足しなかった。彼は世界的スポーツに巨大ビジネスチャンスを見て取り、ISL社(International Sports and Leisure)を創設した。アディダスとISLの両方の売上げを伸ばすためには、国際スポーツ連盟の幹部を抱き込む必要があった。ホルストは、彼らを買収した。
スポーツ団体の役員たちは、腕に高価なスイス時計をはめて、選手たちに3本線入りのアディダスを着用させる契約に署名した。ヨーロッパの大物サッカー役員の自宅玄関前には、誕生日にメルセデスの新車が届いた。
後にサッカー界にはびこる、賄賂をつかった買収工作は、70年代半ばから始まっていたようです。ここに登場するISLという会社は、82年、アディダス51%、電通49%の出資で作られた会社であり、いろいろな買収工作の温床になっていきます。

本書では、もう、うんざりするほどの不正の数々、狡猾な錬金術、拝金主義的なFIFA幹部の悪行がこれでもかと披露されていきます。

2002年、日韓ワールドカップでのある印象的な試合についても言及されています。

韓国を勝たせなければならない 
ゼップ・ブラッターは2002年のワールドカップについて、頭を抱えていた。彼が世界のテレビ局に巨額の放映権料をこれまで通り請求し続けるには、スタジアムを満杯にする必要がある。問題は韓国だった。韓国の人々は韓国代表が出場する試合はすべて見たがった。だが、自国代表が敗退した後の試合のチケットを、買おうとするだろうか。ブラッターは現場担当役員に、スタジアムを満杯にするよう指示を出した。
決勝トーナメントに入って、韓国はイタリアと対戦した。毎回波瀾を呼ぶ顔合わせである。イタリア側にとって、今回とくに波瀾含みだったのは、エクアドル人の主審バイロン・モレノだった。試合開始からわずか四分で、彼は韓国側に不可解なペナルティーキックをあたえたーーが、これははずれた。その後試合はイタリア有利に運び、18分でクリスチャン・ヴィエリがゴールを決めた。勝利目前の88分で韓国が得点し、同点になった。
延長戦のハーフタイム直前に、フランチェスコ・トッティが韓国のペナルティーエリアに倒れ込んだ。リプレイを見る限り、イタリアはペナルティキックを得て然るべきだった。ところがモレノはトッティが「ダイブ」したとして、退場させた。後半ではダミアーノ・トンマジのゴールデンゴールが認められず、このときも世界中のファンの不信を買った。延長戦の残り三分に、安貞桓(アンジョンファン)がイタリアのディフェンスを超え、ヘディングでゴールデンゴールを決めた。
この試合、私は麻布十番のイタリアン・レストランで大勢のイタリア人と一緒にテレビ観戦していました。あまりに酷いレフェリングに、罵声とため息がレストラン中にこだまする大騒ぎの観戦だったのを、つい昨日のことのように思い出すことができます。

まったく腑に落ちなかったこの試合の結果が、不可抗力なコントロール下にあったということが、この本で裏取りできました。あのエクアドル人の審判は、本来別の主審がアサインされていたところ、直前に交替で笛を吹きました。このイタリア=韓国戦は、FIFAが主導した八百長だったというわけです。

とにかく、次から次へと繰り出される「不正」と「賄賂」と「買収」のオンパレード! 著者のアンドリュー・ジェニングスの凄いところは、怪しいと思った案件を諦めずに追求するところです。スイスの司法当局とブラッターとアヴェランジェが、「不正を認める代わりに賄賂の一部を返却する。その代わり本件の内容は公開しない」という司法取引を行った事実もすっぱ抜いて、本書で披露している。


ついでに言うと、オリンピックも汚れてるんですよ。以下引用。
その日、ブラックなエンタテイメントが一つあった。2016年のリオオリンピック、2012年のロンドンオリンピック、2018年の冬季オリンピック招致で成功を収めたという、ロンドンの宣伝担当係マイク・リーが、票集めにはある種の「話法」が必要だと指摘した。そして自分の最も新しい成功は、2022年のワールドカップをカタールにもたらしたことだと語った。
マイク・リーなる人物は、2012年ロンドン、16年リオデジャネイロ、18年平昌オリンピックの招致を成功させています。これ、おかしくないですか? 何でこの人だけが連続して招致に成功するの? 

別の資料によれば、12年ロンドン、16年リオ、そして20年東京の招致を成功させたのがロンドンベースのSeven46という会社です。東京招致チームのプレゼンを指導した人ですね。先のマイク・リーとロンドン招致、リオ招致でカブってますが、パートナー的な関係でしょうか。あるいは、役割が違うんですかね。

この、招致に関わっている人たち、確かに招致活動の凄腕なのかもしれませんが、実はその正体は、IOCの幹部連中と握ってる賄賂仲介エージェンシーだと考えられませんか? 石原慎太郎が2016年大会で東京開催の誘致に失敗したときに、そういう非合法エージェンシーの存在について言及していませんでしたっけ。

この本を読んでしまったいま、2020年の東京オリンピックも賄賂によってもたらされたとしか思えません。「オ・モ・テ・ナ・シ」でも安倍首相の「完全にコントロールされています」発言でもない。オリンピックは「ワ・イ・ロ」で決まっている。

2018年(ロシア)、2022年(カタール)のワールドカップ開催地は、2010年の12月に決定されましたが、それまではいずれも、一度の総会でひとつの大会の開催地が決められていました。ところが、この時は2大会の開催地が一度に決定する運びになりました。

なぜだか分かりますか?

本書を書いたジェニングスによる追求で、「ブラッターの退任時期が近づいている」こと、高齢になっている「アヴェランジェの引退時期も近づいている」ことなどを鑑みて、奴らは、2大会分の賄賂を一度にせしめようとしたんです。つまり、次の集金まで4年も待てないと。一度の総会で、2倍の賄賂。

ただ一言、「地獄に堕ちろ」です。

せめてもの救いは、幹部たちが逮捕されていること。
米司法当局は、スイス当局の協力を得て七人の幹部を逮捕し、元副会長のジャック・ワーナーを含む一四人を起訴した。ロレッタ・リンチは記者会見で、1991年以来続いてきた不正によって、テレビ放映権、W杯や会長選の見返りにやりとりされた賄賂は1億5000万ドル(約185億円)を超えると指摘、この他にも、海外旅行などのたかり行為、資金洗浄、海外不正送金、などの罪がある、とした。
逮捕された幹部も逮捕に怯えた幹部も、自分がいったいどんな悪事を働いたのか、理解するまでに時間がかかったことだろう。賄賂とリベートは、ジョアン・アヴェランジェが1974年にFIFAの一代前の会長に就任して以降、常識のようになっていた。世界で最も人気の高いスポーツが、その頂点に立つ人物を筆頭に道徳観ゼロの下司(げす)な人物たちに支配される風潮は、ますます強まっていったのだ。
しかし現在、ブラッターは逮捕されずにシャバでのうのうと暮らしています。現在99歳のアヴェランジェも同様。2015年10月以降空位となっているFIFA会長を新たに選ぶ選挙は、2016年の2月26日にチューリッヒで行われます。しかし、誰が選ばれたとしても、FIFAがすぐにクリーンになるとはとても思えません。


そして、彼らの天文学的な不労所得のツケは、世界中のサッカーファンが払わされているんです。試合の高額なチケット代、レプリカユニフォームをはじめとするさまざまな関連商品代、有料放送の視聴料……。

私も長年におよぶサッカーファンですが、正直、この本を読んでしまったことを後悔する気持ちも覚えます。バリー・ボンズやランス・アームストロングのドーピングの件を思い出しましたが、レベルが全然違いますからね。大相撲の八百長の件もはるかに霞む。何しろ、世界をまたいで組織ぐるみで悪事の限りをつくしてるわけですから。FIFAマフィアは。

この本も、是非ハリウッドで映画化してほしいですね。そして、世界中の多くの人々に、FIFAの長老たちの巨悪を知らしめてもらいたい。そして懲らしめてもらいたい。サッカーを愛する者からの、切実なる要望ですね。







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