2016年1月29日金曜日

これは映画になったヤツ。「世紀の空売り」こと「マネー・ショート」

アカデミー賞候補になっている映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」の試写を見てきました。感想をひと言で言えば、「凄く面白い!だけど、凄く難しい!」ということになります。

2008年のリーマン・ショックの時に、「ウォール街が破綻する」方に賭けて、大勝利をものにした金融マンたちのお話です。実話に基づくストーリー。


原題は「Big Short」です。Shortというのは「空売り」のこと。金融の世界では「買い」が「Long」で「売り」が「Short」です。映画には原作があって、その題名は「世紀の空売り」(文藝春秋・刊)。

この映画を理解するためには、まず「空売り」が何であるか知っておく必要があります。まあ金融に興味のない人はそれほど詳細に理解する必要はないですが、概念は分かっていた方がベターですね。株式市場などで、対象となる会社の株価が上がる方にかけることは「株を買う」行為、一方、株価が下がる方にかけることを「株を空売りする」と言います。株を借りて空売りした後、後で買い戻す取引です。詳細はWikipediaなどで。

続いて、サブプライム・ローンってどんなローンのことでしょう。Wikipediaから引いてみます。
サブプライムローン(米: subprime lending)とは、主にアメリカ合衆国において貸し付けられるローンのうち、サブプライム層(優良客(プライム層)よりも下位の層)向けとして位置付けられるローン商品をいう。通常の住宅ローンの審査には通らないような信用情報の低い人向けのローンである。
これらのローン債権は証券化され、世界各国の投資家へ販売されたが、米国において2001 - 2006年ごろまで続いた住宅価格の上昇を背景に、格付け企業がこれらの証券に高い評価を与えていた。また、この証券は他の金融商品などと組み合わされ世界中に販売されていた。

はい、「プライム」な層よりも下層(=サブ)の人たち、信用情報の低い人たち向けのローンが「サブプライム・ローン」だということが分かりました。



ウォール街の連中は、このハイリスクなローンを束ねて、CDO(Collateralized Debt Obligation)という金融商品を作ります。それを切り刻んで世界中の投資家に大量に売りさばいていたと。

しかしハイリスクなローンの集合体なのに、なぜ大量に売れるんでしょう? Wikipediaでも言及されてますが「格付け企業が高い評価を与えていた」というところがミソです。

このあたりをもう少し詳しく理解するために、原作本の力を借りることにしましょう。以下引用。
なぜムーディーズとS&Pは、危なげなモーゲージ・ローンの80パーセントに、アメリカ国債と同じトリプルAの格付けを気前よく授けたのだろう?
商品の価格は、商品に与えられた格付けによって変動し、その格付けは、ムーディーズとS&Pが使うモデルによって決まる。モデルの仕組みは社外秘とされ、ムーディーズもS&Pも、不正操作など不可能だと断言している。しかし、そういうモデルに携わる人間が、不正な働きかけに弱いということは、ウォール街の常識だった。
「ウォール街に就職できない連中が、ムーディーズに就職するんですよ」と、ゴールドマン・サックスのトレーダーからヘッジファンド・マネジャーに転身したある人物が言う。格付け機関の内部にはまた別の階級制があって、サブプライム・モーゲージ債の格付け役は、その中でもさらに陽の当たらない場所にいた。「格付け機関の中で、いちばんましなのは企業信用の担当者ですね」と明かすのは、モルガン・スタンレーでモーゲージ債の開発に当たっていた計量アナリストだ。「次がプライム・モーゲージの担当者。その次が資産担保の担当者で、この連中はたいてい能なしです」
年収数百万ドルのウォール街のトレーダーたちが、年収7万ドルないし9万ドルの能なし連中をおだてて、考えられるかぎり最悪のローンに可能な限り高い格付けをさせる作戦行動に乗り出した。


何ということでしょう! ムーディーズやS&P(スタンダード&プアーズ)の「能なし連中」が、クズのようなローンを寄せ集めて作った債権にトリプルAの格付けを与え、それを欲深いウォール街の証券会社が右から左に売りさばいた結果起こったのが、リーマンショックなわけ。もう少し引用します。
「格付け機関の社員は、みんな公務員みたいな感じなんです」とダニエル。集団としては債券市場でいちばん力を持っているのに、ひとりひとりは非力なのだ。
「給料面で恵まれてないんだよ」と、アイズマン。「その中で、目端の利くやつはさっさと投資銀行に転職して、その経歴を武器に、元の職場を操作する側に回ってしまう。本来、ムーディーズのアナリスト以上に大仕事ができるアナリストなどいないはずだ。『アナリストとして、これ以上の地位は望めない』と胸を張っていい。ところが、稼ぎはびりっけつ!  
ゴールドマンがゼネラル・エレクトリック(GE)の社債を気に入っても、別にどうってことはない。ムーディーズがGEの社債を格下げすれば、大騒ぎになる。なのに、どうしてムーディーズの社員がゴールドマン・サックスに転職したがらなきゃいけないんだ? ゴールドマンのアナリストがムーディーズに行きたがるというのが、筋だろう。そういうエリート集団であるべきなんだよ」

この格付け機関のくだりは、映画の中でも原作本の中でも決して本筋ではありません。だけど何度も何度も繰り返されるテーマです。私は、ここに一番衝撃を受けましたね。スタンダード&プアーズとムーディーズの実態が、こんなにデタラメだなんて。



映画「マネー・ショート」は、アカデミー賞で作品賞以下5部門でノミネートされました。助演男優賞にノミネートされたのはクリスチャン・ベールですが、スティーブ・カレルが演じるファンドマネージャー役の方が印象に残りました。強欲な相場師であるだけではなく、取引の善悪の本質について見る者のカルマに直接訴える、そんな複雑な演技を披露しています。

映画を見て、きっちりと理解できなかった部分があったので原作を読んだわけですが、ようやく全体が理解できました。例えば、この映画における「空売り」に対する「買い手」が誰なのか、今ひとつ分かりにくい。競馬で言うなら「ノミ屋」みたいなもんですかね。実際にリスクを受けている相手が誰なのか。それが、原作を読んでよく分かりました。てか、映画ではだいぶ端折っちゃってます。大胆な省略w

この映画見て面白かった人は、原作本おすすめです。いまの金融の世界が、いかに複雑怪奇で、しかも堕落した世界なんだってことがよく分かります。リーマンショックの後始末についても言及されてるし。そこら辺がまたヒドい話なんだよなぁ。

原作はマイケル・ルイス。聞いたことあんなぁと思ったら「マネー・ボール」の原作者でした。「マネー・ボール」は読んでますが、「ライアーズ・ポーカー」とか「フラッシュ・ボーイズ」とか、読んでないのがけっこう多いので、過去の本も追い追い読んでみようと思います。

日本での映画の公開は3月4日です。 原作本は発売中。




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