2015年5月1日金曜日

中国の「不都合な真実」を、これでもかと暴く名著。凄いタメになるよ

今週は「橘玲の中国私論」という本を読んでました。橘玲(たちばなあきら)という人は、「マネーロンダリング」や「タックスヘイヴン」などの経済小説で知られる作家です。経済誌などで連載も多数。さらにこの人のツイッターをフォローしてみると、世界の珍しい場所をたくさん訪れていて、その旅行記がブログに載っています。どのエントリもとても刺激的です。

本作「橘玲の中国私論」は、そんな筆者の博覧強記ぶりを反映した、ちょっと変わった構成になっています。

冒頭、「中国10大鬼城(ゴーストタウン)観光」と題し、オルドス(内モンゴル自治区)のゴーストタウン紹介が始まります。

ちょっと引用しましょう。写真は本とは関係ありませんが、オルドスの景観です。

周囲に生き物の気配はなく、もの音ひとつしない夜に、住人のいない高層アパートがえんえんと続く。片道4車線の広い道路に車はほとんど通らない。ゴーストタウンとはまさにこのことで、ゾンビ映画の撮影にはぴったりだ。こんなシュールな光景はほかではまず見られない。「人間の愚行の記念碑」として世界遺産にも値するだろう。

そんなオルドスに続き、天津・浜海新区(北京から高速鉄道で30分)、中国のハワイと言われる海南島・三亜、黒川紀章が設計した河南省・鄭州など、10のゴーストタウンが30ページあまりかけて写真つきで紹介されます。旅行好きなら、絶対に行ってみたくなるような信じられない光景描写の連続です。


こちらは杭州市の天都城。3分の1スケールのエッフェル塔をメインに、パリの町並みを丸パクリしたゴーストタウン(結果的に)です。

観光案内に続いて本文がスタート。「はじめに 中国を驚くということ」で、筆者は「ここ数年のマイブームは中国の不動産バブルで、地方都市を訪れるたびに呆然とするような都市開発の残骸を目にするようになった」と述べています。「なんで中国はこんなことになったのかと各地のゴーストタウンを取材するうちに、そのゴーストタウン群はみなそっくりで、どこを訪れても同じだということに気づく。そこから出発して、中国についてあれこれ考えたのが本書である」と。

もっとも、筆者は「満州からチベット、ウイグルまで中国のほぼ全土を旅行したものの、私は中国の専門家ではない。だから一介の旅行者の記録、すなわち旅行記だ」と謙遜します。

しかしとんでもない。この本は旅行記どころか、中国に関する秀逸なドキュメントであり、歴史書であり、教科書でもあるのです。


第一章は「ひとが多すぎる社会」という見出しで始まります。

中国には13億の人口があって、省ごとにブレイクダウンしていくと、広東省:1億0430万人、三東省:9579万人、湖南省:9402万人……といった具合に、省がすでに日本と同等の国家規模の人口を擁していることが示されます。

この、人が多すぎるというのは、北京や上海を訪れたことがある方には大いに共感できるポイントだと思います。中国の都市部は、とにかく人が多い。電車はいつだって満員だし、ショッピングモールも常に大混雑で、毎日が渋谷の金曜日の夜みたいな状態。

共産党指導部の統制も、13億人の末端まではとてもじゃないけど届きません。

この「管理可能な限界を大きく超えて人口が多すぎる」ことが、中国の問題であるという主題は、本書の中で繰り返し登場します。これは誰でも理解できるでしょう。

そして次に語られる、中国人の行動規範に関する項を読むと、軽く目からウロコが落ちます。

中国は「関係(グワンシ)の社会」だといわれる。幇(ほう・パン)を結んだ(義兄弟の関係に近い)関係は、血の繋がりよりも濃い。これが中国人の生き方を強く規定している。

日本人にはとても分かりやすい事例が紹介されていました。岡ちゃんこと岡田武史監督が、中国のプロリーグ・杭州緑城の監督を務めていた時のエピソードです。本書から引用しましょう。

岡田監督はインタビューなどで何度か中国サッカーの現状について語っている。中国社会が「関係(グワンシ)」で成り立っていることはよく知られているが、サッカーでもオーナーや監督などチームの有力者と「グワンシ」のある選手はスタメンが約束されていた。これではほかの選手がやる気をなくすのも当たり前で、岡田監督はオーナーと話をしたうえで「グワンシ」のある選手を放出し、すべての選手に平等にチャンスが与えられるようにした。

こんな選手起用をしていた岡田監督は、地元サポーターから熱烈な支持を集めていたそうです。日本でも縁故やコネが幅を利かせる時代(特に田舎では)がありましたが、今はあまり感じなくなりました。いまだにそういう人間関係がプライオリティになっている社会が中国なのだと筆者は語っています。


これ以外にも、現代中国のゆがみやひずみや特異な点が次々と暴かれていきます。列挙してみましょう。

「人類史上最大」といわれる不動産バブルの正体は何か?

答えは、地方政府がタダ同然で手に入れた農地にマンションを建て、仕入れ値の1000倍以上の金額で販売しているから。利益率が1000倍ならば、例え新築のマンション群がごっそりゴースト化しても、赤字にはならないかも知れません。

中国にはなぜヤクザ組織がないのか?

それは、中国共産党がヤクザ組織みたいなものだから。なるほど、そうか。あまり詳しく書きませんが、実に正鵠を得ています。

中国社会で賄賂が横行するのは何故?

公務員の給料が安すぎるから。これは数字を見てみましょう。2001年、朱鎔基首相が自らの給料を年収29万円〜43万円と述べたそうです。14年前とはいえ、国家の首相にしてそんな金額レベル。地方政府の裁判官は月収200元(2400円・レートは当時のもの)。つまり、公務員が生きて行くには、収賄に手を染める以外にないんだそうです。

その他にも、
中国には「知日派」はいても「親日派」はいない
日本人とモンゴル人はなぜ似ているのか
日本人の2割ほどが、お酒を一切飲めない「下戸」である由来
日本が「日本」を名乗り始めた理由と原因
「中華人民共和国」「共産党」「社会主義」は日本に亡命した中国人が作った和製漢語
中国がアフリカでインフラ事業を積極的に行っている背景

などなど、タメになる情報が満載。中国の現在・過去・未来がギッシリ詰まっています。そして、日本人が知らない日本の真実についても色々知ることができて大変面白い。夢中で読みふけってしまいました。

ああ、また中国に行きたくなってきた。オルドスの鬼城、是非行ってみたい。


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