クリストファー・ノーランの新作「ダンケルク」を見てきました。第2次大戦下の1940年、フランスの港湾都市ダンケルクで、ナチス軍に海岸沿いに追い詰められた英仏軍40万人を、海から脱出させる一大撤退作戦を描いた映画です。
ノーラン監督の映画は全部見ると決めていますが、正直、直近2作品は難易度が高かった。「インセプション」と「インターステラー」のことです。いずれも、右脳よりも左脳の稼働を強いる映画です。しかも観念的。見終わってぐったり、疑問は残るわ、他人にうまく説明できないわ……。
その点、今回の「ダンケルク」は史実に基づく出来事を描いているので、安心して見ることができます。「ノーラン初の実話ベース。しかも、戦争映画。どうやってノーラン節を奏でてくれるのよ?」って感じで興味津々で見てきました。そしたらもう、始まって5分ぐらいで「凄えぇ。何だこれ?」ってなりました。映像のクオリティがとんでもないんですよ。
ノーランは、この映画のほぼ全編をIMAXのフィルムカメラで撮影したそうです。IMAX、しかもフィルム……気が狂っていますw ほら、上のポスターにも「SHOT WITH IMAX FILM CAMERAS」って書いてある。きょうび、「全編iPhoneで撮影しました」って長編映画が劇場公開される時代に、重さ50キロもあるIMAXカメラで全編アナログ撮影だなんて、意味がまったく分かりません。どんだけ「こだわりの男」なんだよ。
ダンケルクの海岸線を舐める空撮にシビれます。ヘリコプターでもない、ドローンでもない、プロペラ機からの空撮。空爆で火の手が上がり、兵士が逃げたり伏せたりしている海岸線を、ゆったりと空からカメラが捕らえます。まるでナショジオの映像のように。
ほぼ全編がロケーション撮影なので、地平線、水平線が常に見えていて、戦場のスケール感が伝わります。しかもIMAXカメラの威力は絶大で、ダンケルク港の海岸、沖合、空中で起きている出来事を、圧縮なしの超精細映像で描写していきます。どのカットを切り取ってポストしても、インスタで「いいね!」がたくさんもらえそう。戦争映画なのに、異常に画がキレイって感覚は、テレンス・マリックの「シン・レッド・ライン」以来かも知れません。
撮影監督は、空撮の名手ホイテ・ヴァン・ホイテマ。「インターステラー」や「007 スペクター」などで知られるマエストロ。来年のオスカーでは、撮影賞ノミネート確実だと思います。エマニュエル・ルベツキも(恐らく)新作ないし。
しかしまあ、このダンケルクのストーリーはタイムリーです。英国首相の指令のもと、ドイツが包囲するテリトリーから英国人が官軍民一体となって撤退戦を敢行するって、まさにブレグジットのことじゃないですか? この映画を見て、もっとも大きなカタルシスを覚える国民って、間違いなく英国人だと思うんですよ。来るブレグジットに備えて、英国民の皆さんにあられましては、マストで鑑賞ってことにしたらいいんじゃないかと。ある種のイメージトレーニングですね。
それはともかく、「ダンケルク」は間違いなく賞レースのトップに躍り出ましたね。オスカー大量ノミネートは確実だと思います。わけても、ストーリーが分かりやすいのは大きなアドバンテージです。いつものノーラン映画と全然違う。もっとも、例年、賞レースは9月のトロント映画祭あたりからスタートするので、現時点で本命視するには早すぎるんですけどね。それでもまあ、けっこういい勝負をすると思いますよ。
日本では9月9日公開だそうです。是非、IMAXシアターで。